Vol.1 業務の書類作成効率化の意義

こちらの連載は、『自立支援のケアマネジメント実践例!達人ケアマネ』

2016年6月30日発行された内容です。

連載を始めるに当たって

 私は、東京都江戸川区と千葉県船橋市で独立型 の居宅介護支援事業所「介護屋みらい」(以下、 当事業所)を営んでいます。江戸川店には8人、 船橋店には5人のケアマネジャーが所属し、私自 身もケアマネジャー業務をしながら、双方の管理 者と共に運営しています。

 当事業所では、業務と書類作成の効率化を非常に大切にしています。後程詳しく説明しますが、 これらを行うことは、相談援助者として利用者・ 家族ときちんと向き合える、また、利用者・家族 を支える事業所と信頼関係を構築できるようにす るために必要であるととらえています。

 前述したとおり、私自身もケアマネジャーとして業務にあたっており、2016年5月の時点でかかわっている利用者の数は、要介護46人、要支援3人(事業所 として常勤換算上の減算はない状態)です。

 さらに、ケアマネジャーを紡ぐ会(後述)、江戸川介 護情報委員会、江戸川北法人会、中小企業同友会などへの参加のほかに、小学校のPTA活動、政治的な勉強会への参加なども行っています。

すべてのことをこなすためと、利用者・家族との信頼関係づくりのために、また私が相談援助者として最も大切にしているモニタリングや訪問時間などを利用者・家族だけでなく相談援助者も満足できるものとするために、業務・書類作成を効率化する必要があります。

「時間は無限ではなく、有限である」

「段取り8割・実行2割」

を合言葉に仕事に取り組んでいます。

介護報酬から考える業務と 書類作成の効率化の必要性

 私が効率化が必要であると考えるのには大きな理由があります。それは、ケアマネジャーへの居宅介護支援費は適正ではないと考えるからです。 

 ケアマネジャーの平均年収は、調べる所で多少のずれは生じるものの、平均して370万円前後です。年収と報酬を知ることは、適正を考える上で非常に大事です。

 次に、1人の利用者にかかる仕事量を例に説明します。

 ケアマネジャー業務は、必ず初回アセスメントから始まります。そこで、初回アセスメントから支援が開始されるまでに費やされるケアマネジャー の業務量と、初回加算について見ていきます。

 仕事はまず、相談依頼から始まります。依頼は、地域包括支援センターや病院などの機関から来ることが多いと思います。それらの機関からの相談内容を聞いて、利用者にアポイントの電話を入れて訪問し、契約・アセスメントを実行し、帰社します。

 図1ではこの過程を2時間としていますが、 本来は移動なども含むので、2時間では終了しないことが多いです。 次に、 アセスメントしてきたことをフェースシート、 アセスメントシートなどに記載し、そこから、 ケアプラン1~3表を作成します。

 図1ではこの 過程の時間を3時間としていますが、新人ケアマ ネジャーでは丸一日かかることもよくあります。 ここではあえて少なめの3時間と表現します。

 なぜなら、ここにかかる時間が多ければ多いほど、 ケアマネジャーの報酬の適正を考えた時、目も当てられない状態となるからです。

 契約とアセスメントを行い、ケアプランなどの作成が終了したら、サービス担当者会議を実施します。図1ではそれにかかる時間を2時間として います。これも、事業所に情報を送ったり、事前に電話である程度の状況などを伝えたりしながら 日程を調整し、実際のサービス担当者会議を開催した後、サービス担当者会議の要点を作成することを考えると、2時間では足りないと思います。

 このように、初回支援導入のために、ケアマネジャーは最低でも7時間の労力を費やします。

 実際は7時間で済むことはないでしょうが、ここでは7時間とします。7時間かかっていただける初回加算は300単位です。ここでは地域加算などは 考慮していないので、単純に3,000円の報酬です。 

では、次に毎月の仕事を見てみます。 

 月に1回のモニタリングは、利用者とアポイントを取るところから始まります。アポイントを取り、そこから日時を調整して、訪問日当日に利用者の自宅まで移動し、それからモニタリングが始まります。そして、モニタリングが終了し、事務所に帰社するまでの時間を1時間45分とします。 

 これはあくまでも当事業所の実績を平均したものなので、短い場合と長い場合があると思います。

 多くのケアマネジャーは、帰社後にモニタリン グ表を記載していると思います。これにかかる時間は人それぞれですが、ここでは15分としておきます。

 これで終了ではなく、

  • 支援経過を記載したり
  • 事業所に報告・連絡したり
  • サービス提供表を配布したり
  • 給付管理をしたりするので、さらに1時間程度の時間が必要となります。

 初回に立てたケアプランが未来永劫続くことはないので、途中でプラン変更になったり、更新申請があったり、短期目標が終了した時に新たにケアプランを作成したり、通常の業務以外のケアプ ラン作成が入り込んできたりするので、その他の部分は平均すると1ヵ月1時間程度になります。 つまり、1カ月に1人の利用者にかかる時間は4 時間程度になります。 

 先述したように、ケアマネジャーの平均年収はおよそ370万円です。時給に換算すると1,835円に なります。会社がケアマネジャーに1,835円の給料を支払うには、最低でも2倍の収入が必要です。 

 会社は、社会保険料やケアマネジャーが作成する書類などの経費、電気、ガス、家賃の案分など、さまざまな支出があります。3倍稼がないと会社経営が成り立たないと言う人もいますが、ケアマネジャーの仕事はケアマネジャー自身が労働者であり、商品でもあるので、私は3倍まで稼ぐ必要はないと考えています。

 ですが、2倍はないとやはり経営は成り立ちません。よって、会社が1,835円を支払うためには、ケアマネジャーは時給で3,670円稼ぐ必要があります。

 1人の利用者につき毎月4時間程度の時間がかかりますので、

 会社のコストは4時間×3,670円となります。

 14,680円のコストがかかっていますが、いただける報酬は 11,970円です。 

 これでは、ケアマネジャーが1人の利用者にかかわるだけで毎月2,710円の赤字です。

 全国のケアマネジャーの平均利用者数が36.2人1)ですの で、1人のケアマネジャーは毎月98,102円の赤字 を出しているということになります。

 初回加算取得についても、7時間を費やして3,000円の報酬ですから、時給換算すると428円です。このように考えると、ケアマネジャーとは、どのような職業なのでしょうか。 

赤字を減らす方法と考え方

 独立型の居宅介護支援事業所の当事業所はどのようになっているかというと、特定事業所加算 IIを取得しているので、1人の利用者につき1,300 円ほどの黒字になっている状態です。

 しかし、全国の事業所の特定事業所加算の取得状況は3割程度で、残りの7割が取得できていません。これにより、居宅介護支援事業所は赤字分野となっています。日本の平均年収は、調査する 団体や方法によって変わってきますが、410万円前後が多いです。

 居宅介護支援事業所の赤字を減らすためには、3つの方法があります。

  • 取得できていない特定事業所加算の取得を目指す。
  • 既に日本の平均年収よりケアマネジャーの平均年収は低いが、さらに年収を減らす。 
  • 居宅介護支援費を実情に合わせた報酬に改定する。

 ケアマネジャーがれっきとした職業である以上、 正当な報酬がなければならないと思います。特定事業所加算を取得することで赤字を減らすことはできます。

 しかし、今よりもさらに年収を減らす、 実情に合わせて報酬を改定するというのは現実的ではありません。このような状態で報酬に合った 仕事をすることを考えた時、私は

「ケアマネジャー は事務員ではない。相談援助者として究極のアナログビジネスをしている」

という考えに至りました。

 ビジネスという言葉を使用すると嫌悪感を持つ人もいると思いますが、仕事としてのケアマネジメントは究極のアナログビジネスであり、究極のコミュニティービジネスであると考えます。

 この考えからすると、まっとうな報酬をもらえないなら、報酬内でやらなければいけないことは、素晴らしい書類を作成することよりも、60点の出来の書類でもきっちり全員分あり、相談援助者として利用者・家族・事業所・地域とかかわるためにどれだけ時間をつくれるかということになります。

 つまり、「人参もぶら下げないで、あれやれ、これやれは通用しませんよ」といったスタンスです。

労働基準法から考える業務と 書類作成の効率化の必要性

 私は、「ケアマネジャーを紡ぐ会」という会を 2015年9月16日に設立しました。

 2016年5月の時点で会員数は170人を超えました。会員数は毎月10人以上増加という個人が立ち上げたケアマネ ジャーの団体としては、驚異的な伸びを示していると自負しています。

 ケアマネジャーを紡ぐ会では「ストレスをため ずに効率よく仕事する方法」と題して研修会を行っていますが、その研修会に延べ約800人に参加していただきました。その研修会の初めに、必ず参加者に聞くことがあります。

 「毎月の仕事(書類など)をその月のうちに終わ らせることができているか」

 参加者800人中30人程度が「できている」と答えました。その30人にさらに「残業をしないで終 了することができているか」を尋ねると、「できている」と回答したのはたった3人でした。

 800 人のケアマネジャーのうち、4%弱しか当月中に仕事が終了させられず、約0.3% しか残業をしないで終了することができていないのです。

 これは正常な状態か、非常に疑問に感じています。多く のケアマネジャーが多少残業をしてでも当月中に 仕事が終了して、仕事の要領をつかめていない人 のみ業務が残ってしまうのであれば問題ないですが、そうではない現状があります。

 その原因は、 不適切な仕事量であると考えます。

 この研修会で、もう一つ必ず質問することがあります。

それは「ケアマネジャーは何法の下に働いていますか」です。

95%は「介護保険法」と答えます。これは、筆者の解釈としては間違いです。

  私の解釈は「ケアマネジャーは労働基準法の下に働いて、取り扱っているのが介護保険法」です。 

 労働基準法は本当に素晴らしい法律です。雇用者側からすると厳しい法律ですが、労働者側すると労働者を守る法律です。介護保険法もそうであるように、法律は基本的に第1条にその法律の想いがあると考えています。

(労働条件の原則) 

第1条 労働条件は、労働者が人たるに値す る生活を営むための必要を充たすべきもの でなければならない。

  2  この法律で定める労働条件の基準は最低 のものであるから、労働関係の当事者は、 この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。

 これを見ると、労働者の立場に立っている法律だと感じることができます。「法定労働時間」という言葉は聞きなれない人もいるかと思いますが、

労働者の労働時間は、休憩時間を除いて1週間40 時間、1日8時間

と定められています。これは非常に厳しい決まりで、使用者は週40時間以上、1 1日8時間以上の労働をさせてはいけません。

 たとえ週40時間未満でも、1日8時間以上の労働をさせてはいけないことになっています。

 法定労働時間を超えて労働者を労働させると罰則(6カ月以 下の懲役または30万円以下の罰金)の適用があります。

 しかし、皆さんは残業をしていると思います。 それは、使用者側と労働者側の代表により、36協定というものが締結されているからです。36協定とは労働基準法第36条に基づく、時間外・休日労働に関する協定のことで、労働基準監督署への届出が義務付けられています。